ティラノザウルス⑥

北海道の端っこの町、風が吹けばすぐに海の匂いが届く小さな家に、小学三年生の陽斗(はると)と、母の美咲、そして父の大輔が暮らしていた。冬が終わりかけたある夕方その日の昼休み、教室の隅でちょっとした騒ぎが起きていた。

仲裁

ティラノザウルス
ティラノザウルス

「海斗の恐竜が、ぼくの宇宙船にぶつかったんだよ!」

「違うよ!そっちが先に机を押したんだろ!」

海斗と翔太が、作品展の準備で作った模型をめぐって言い合いをしていた。机の上には、倒れた宇宙船と、足の太いティラノサウルス(海斗作)が転がっている。周りの子たちは、どうしていいか分からず、ただ見ているだけだった。そのとき。

「ちょっと待って!」

陽斗が、ティラノサウルス委員長らしく(?)胸を張って前に出た。紗良も、まるで魚の仲裁人のように、静かに後ろからついてくる。

「まず、どっちの話も聞かせて」

陽斗が言うと、海斗と翔太は同時に口を開いた。

「海斗の恐竜が」

「翔太の宇宙船が」

「ちょっと待って!一人ずつね」

陽斗は、手を広げて二人を制した。その姿は、まるで恐竜の群れをまとめるリーダーのようだった。

「海斗から話して。どうしてぶつかったの?」

海斗は、少し落ち着いた声で話し始めた。

「俺、恐竜を動かしてたら、机がガタッてしてそしたら宇宙船に当たっちゃったんだ」

「うん。じゃあ翔太は?」

「ぼく、宇宙船の羽を直してたんだけど急にガタッてきて、壊れたと思って」

陽斗は、二人の話を最後まで聞くと、ゆっくりうなずいた。

「なるほど。どっちもわざとじゃないんだね」

海斗も翔太も、少し恥ずかしそうにうつむいた。

紗良

そこへ、紗良が一歩前に出た。

「ねえ、二人とも。作品展って、みんなの作品を見てもらう日でしょ?だったら、壊れたままじゃもったいないよ」

紗良は、翔太の宇宙船をそっと持ち上げた。

「羽、ちょっと曲がってるけど直せるよ。私、手伝う」

翔太の顔がぱっと明るくなった。

「ほんとに?」

「うん。魚のヒレ直すの得意だから、宇宙船の羽もいけるよ」

海斗が笑った。

「それ、関係ある?」

「あるよ。細かいところ見るの得意なんだもん」

紗良は胸を張った。陽斗は、海斗の恐竜を手に取りながら言った。

「海斗の恐竜も、ちょっと足が曲がってるけどこれも直せるよ。ぼく、昨日家で練習したから」

海斗は目を丸くした。

「陽斗、そんな練習してたの?」

「うん。父さんが、委員長なんだから練習しとけって」

「委員長じゃないけどな!」

海斗が笑い、翔太もつられて笑った。陽斗は、二人の顔を見て言った。

「じゃあさ、二人で謝るんじゃなくて一緒に直そうよ。そしたら、どっちの作品ももっと良くなるよ」

海斗と翔太は、顔を見合わせてうなずいた。

「うん。そうしよう」

「ごめん、怒って」

「ぼくも。ごめん」

その瞬間、教室の空気がふっと柔らかくなった。北村先生は、少し離れたところからその様子を見ていた。陽斗が話を聞き、紗良が優しく寄り添い、二人が自然と場をまとめていく。

(この子たちは、聞く力をちゃんと持っている)

北村先生は、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。

放課後

放課後、陽斗と紗良は並んで帰りながら話していた。

「今日、すごかったね」

「うん。海斗も翔太も、ちゃんと話してくれた」

「陽斗が聞いてくれたからだよ」

「紗良が優しく言ったからだよ」

二人は、照れくさそうに笑い合った。聞く力は、誰かを助ける力になる。そして、誰かを助ける力は、また次の誰かを救う。陽斗と紗良の小さなリーダーシップは、今日もまた、教室を静かに変えていった。

ティラノザウルス⑦へ続く

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