ティラノザウルス④

その日の朝、教室には春の光が差し込んでいた。 カーテンが風に揺れ、黒板のチョークの粉がきらきらと舞っている。北村先生は、教卓の前に立つと、クラス全員に向かって言った。「今日は、来週の『春の作品展』の準備を始めます。みんなの作品をどう並べるか、どんな説明文をつけるか、グループで決めてください」

春の作品展

ティラノザウルス
ティラノザウルス

教室がざわざわと賑やかになった。陽斗は、胸の奥が少しだけそわそわしていた。最近、家で話を聞いてもらえるようになってから、学校でも自然と声が出るようになっていた。

(今日は、ちょっと頑張ってみようかな)

陽斗のグループは、紗良、元気いっぱいの海斗、そしておっとりした優衣の4人。

「どうする?作品、どんな順番で並べる?」

紗良が言うと、海斗がすぐに手を挙げた。

「俺の恐竜を真ん中にしようぜ!でっかいし!」

「いや、それはちょっと」

優衣が困った顔をする。グループは、早くも混乱の気配を見せていた。そのときだった。

「ねえ、みんな」

陽斗が、そっと手を挙げた。3人が、ぴたりと陽斗を見た。

「せっかくだから、テーマ決めない?

恐竜とか、動物とか、色とか。テーマがあったら並べやすいよ」

海斗が目を丸くした。

「テーマ?そんなの考えたことなかった!」

紗良は、ぱっと笑顔になった。

「いいね!陽斗、なんかテーマある?」

陽斗は、少し照れながら言った。

「生き物の世界とかどう?海斗の恐竜も、優衣のウサギも、紗良の魚も、全部入るし」

優衣が手を叩いた。

「それ、すごくいい!」

海斗も、満面の笑みでうなずいた。

「じゃあ俺の恐竜は太古の生き物ってことで真ん中に置こうぜ!」

「それはまあ、いいんじゃない?」

陽斗は笑った。グループは、一気にまとまり始めた。

視線

北村先生は、教室を回りながら、陽斗のグループをちらりと見た。陽斗が、みんなの意見を聞きながら、自然と話をまとめている。

「じゃあ、説明文はどうする?ぼくたちは生き物をテーマにしました、って書こうか」

「いいね!陽斗、字きれいだから書いてよ」

紗良が言うと、陽斗は照れながらも頷いた。

(陽斗くん、こんなに話す子だったっけ)

北村先生は、胸の奥がじんわり温かくなるのを感じた。説明文を書き終えると、海斗が陽斗の肩をぽんと叩いた。

「陽斗、なんか委員長みたいだな!」

「えっ、ぼくが?」

「うん!まとめるの上手いし!」

紗良も笑った。

「ティラノサウルス委員長って感じ!」

「それ、強そう」

優衣がくすくす笑う。陽斗は、耳まで赤くなった。でも、胸の奥は、ふわっと温かかった。

(ぼく、みんなの役に立ててるんだ)

放課後

片付けが終わり、帰りの会が始まる前。北村先生が、陽斗をそっと呼んだ。

「陽斗くん、今日のグループ活動、すごく良かったよ」

「え?」

「みんなの意見を聞いて、まとめて、ちゃんと形にしていた。あれは立派なリーダーの姿だよ」

陽斗は、胸がどきどきした。

「ぼく、リーダーなんて」

「ううん。今日の君は、まさにリーダーだったよ」

北村先生の言葉は、陽斗の心に静かに染み込んでいった。家に帰ると、美咲が笑顔で迎えた。

「おかえり。今日はどうだった?」

陽斗は、ランドセルを下ろしながら言った。

「聞いてほしいこと、いっぱいあるよ。今日ね、ぼく、ちょっとだけ、リーダーみたいになれたんだ」

美咲は、そっと陽斗の頭を撫でた。

「すごいね。どんなことしたの?」

陽斗は、嬉しそうに話し始めた。その声は、以前よりずっと自信に満ちていた。聞いてもらえる子は、話したくなる。話したくなる子は、動き出す。動き出した子は、いつの間にか、誰かを導く存在になる。陽斗の小さな一歩は、今日もまた、確かに前へ進んでいた。

ティラノザウルス⑤へ続く

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