いとこ

秋田市の片隅にある、年季の入った喫茶店。営業マンの俺(52歳・ただいま絶賛単身赴任中)は、頭を抱えて冷めかけたコーヒーを睨みつけていた。目の前に座る地元の知人女性、由美さんが、不思議そうに小首を傾げる。

単身赴任

いとことの再会
バーベキュー

「どうしたんですか? さっきからスマホを見ては、新種の珍獣に遭遇したみたいな顔してますよ」

「由美さん、聞いてくれ。実家の兄貴から、テロみたいな連絡が来たんだ」

俺はスマホの画面を突きつけた。そこに並んでいたのは、実家の頼れる(しかし時々突飛な)兄からの、あまりにもテンションの高いメッセージだった。

【兄からのLINE】

お前のところの息子(大学生)と、うちの息子を、そろそろ対面させたいと思ってな! ちょうど東京のビッグサイトで面白そうな展示会があるらしいから、俺の息子たちに、東京に行って従兄弟(いとこ)と会ってこい!って指示しといたわ! あとはよろしく!

「って、おいおいおい!」

俺は思わず机を叩いた。

「うちの息子と兄貴のところの息子、お互い存在は知ってますけど、なんと20年間一度も会ったことがないんですよ!? ほぼ他人ですよ! なんでそんなビッグイベントを、展示会のついでみたいに、しかも親同士の思いつきでセッティングしちゃうわけ!?」

由美さんはフッと吹き出し、それからクスリと笑った。

「お兄さん、豪快ですね。でも、なんだか微笑ましいじゃないですか」

「微笑ましくないよー! こっち(秋田)に赴任してる俺を飛び越えて、東京の息子にダイレクトに火の粉が飛んでるんだから! 息子に「今度イトコがビッグサイトに来るから会え」って連絡したら、「え?誰? 急に言われてもバイトと課題があるし、無理」って、秒で冷たい返事が返ってきたんだよ。あいつら、20年の溝をナメてる!」

俺の取り乱しっぷりに、由美さんは少し考えてから、優しく諭すように話し始めた。

「うーん、なるほど。でもね、お兄さんの言う通り、20年ぶりの親族の再会なんだから、何をおいても仕事や予定を優先して集まるべきだ!って考える人、実際にたくさんいますよ。お兄さんもきっと、その熱量なんですね」

「それはわかるんだけどさ」

「ただ、一方でね」

由美さんはコーヒーカップを置き、息子の立場になって言葉を選んでくれた。

「そのイトコさんたちや、あなたの息子さんにとっては、また別の現実があるのかも。ほら、大学生だって責任のあるアルバイトをしてたり、急に休めない環境だったりするじゃないですか。何より、『20年間会ったことがない』からこそ、まだそこに緊急性を感じていないんだと思います。会いたい気持ちはあっても、先の予定が読めないっていうのが本音じゃないかな」

俺はハッとした。確かに、親の熱量だけで「おい、20年ぶりだぞ!」と迫っても、子供たちにしてみれば「急に言われても困るレジェンド枠」でしかないのだ。

「じゃあ、どう伝えればいいと思う?」

由美さんは悪戯っぽく微笑んだ。

「だからね、予定を曲げてでも来てほしいって強く言うより、無理をしてほしいわけじゃないけど、私は会えるのをとっても楽しみにしているよ、って伝える方が、相手の心は動きやすいと思いますよ。人は、来い!って義務感で言われるより、そんなに楽しみにしてくれてるんだって感じた時の方が、自分から動きたくなるものですから」

「なるほど。心理学だ。具体的にはなんて送ればいい?」

「例えば、こんな感じです」

由美さんは俺のスマホをのぞき込みながら、言葉を紡いでくれた。

私は20年間ご縁がなかったから、今回お会いできたら本当に嬉しいです。もちろん、お仕事や大学の予定優先で全然構わないんだけど、この機会を逃すとまた何年も会えない気がしていて。できれば、一度お顔を見られたら嬉しいな!

「おお!」俺は唸った。「北風と太陽だ。これなら角が立たないし、ちょっと行ってみようかなって気になる!」

「でしょ?」と由美さんは胸を張る。「それにね、もし今回どうしてもスケジュールが合わなくて会えなかったとしても、そこで終わりじゃないですよ。事前に電話やオンラインで、今回は残念だったねって少し話しておけば、それが呼び水になって、次の機会に繋がりますから」

俺はさっそく、由美さんに教わった通りの「太陽アプローチ」の文章を、東京の息子と、兄貴の息子たちのグループライン(※さっき俺が突貫で作った、気まずさMAXのグループ)に転送した。

スマホの画面を見つめながら、少し心が軽くなるのを感じる。

由美さんは窓の外の秋田の空を見上げながら、最後に温かい声で言った。

「20年という時間は長いです。でも、こうして一度縁が繋がり始めた時は、不思議と次の機会も自然に生まれるものですよ。まずは、会いたいっていう素直な気持ちを、そのまま伝えてみるのが一番です!」

「ありがとう、由美さん! よし、これで若者たちの20年目のファーストコンタクト、遠隔で見守ることにするよ!」

数分後。俺のスマホが、ピコン、と鳴った。

東京の息子からだった。

まあ、展示会のあと、1時間くらいならお茶できるかも。おやじ、相手の連絡先教えて

「お、動いた!!」

秋田の喫茶店で、52歳の単身赴任男が小さくガッツポーズを決めた。20年の氷が、ちょっとだけ溶けた音がした。

オンライン

「お、動いた!!」

秋田の喫茶店で俺が小さくガッツポーズを決めた瞬間、目の前の由美さんは「ほらね?」と言わんばかりにドヤ顔で微笑んでいた。

東京の我が息子(大学生)から届いた、「1時間くらいならお茶できるかも」という奇跡のライン。

20年の氷河期が、由美さん直伝の太陽アプローチによって一瞬で溶けかけたのだ。

だが。俺をそう簡単には休ませてくれない。

ピコン。ピコン。ピコンピコンピコンピコンピコン!!!

突然、スマホがポケットの中でマッサージチェアのごとく激しく振動し始めた。突貫で作った「気まずさMAXのいとこグループライン」が火を噴いている。

兄貴の息子A(長男):

マジですか!僕らもビッグサイトのあと、夕方なら全然空いてます! めっちゃ楽しみです!

兄貴の息子B(次男):

初めまして!伯父さん(俺のこと)のメッセージ感動しました! 親父から「東京のいとこは超エリートで冷徹な奴だから失礼のないように」って脅されてたんでビビってました!

おい、兄貴。実家の息子たちにどんな吹き込み方をしてるんだ。

さらに画面をスクロールすると、一番恐れていた男が、満を持してグループに降臨していた。

実家の兄貴:

おおお!若者たちがついに交わるか!胸熱だな! よし、せっかくの20年ぶりの歴史的瞬間だ。俺も今から秋田のお前(俺)とオンラインで繋いで、東京の様子を実況中継してもらうぞ! ズームのURL送れ!

「いや、なんであんたが仕切るんだよ!?」

思わず喫茶店で声が出た。せっかく若者たちがいい雰囲気で1時間お茶しようとしてるのに、おっさん2人がオンラインで監視(しかも片方は秋田から)とか、地獄のディストピア空間である。

由美さんが身を乗り出して画面をのぞき込み、お腹を抱えて笑い出した。

「あははは!お兄さん、本当に期待を裏切らないですね! 完全に親戚のおじさんのテンションじゃないですか!」

「笑い事じゃないよ由美さん! 息子の、1時間ならお茶してもいいっていうなけなしの善意が、オヤジ連中のオンライン乱入によって一瞬で消滅する! 絶対、じゃあ辞めますって既読スルーされるパターンだ、これ!」

俺は冷や汗を流しながら、必死に兄貴への迎撃文をフリック入力した。

兄貴待て! 若者たちの繊細なコミュニケーションにおっさんが介入するのは御法度だ! 絶滅危惧種の生態観察バリに静かに見守るのが鉄則なんだよ!

しかし、兄貴からの返信は早かった。

実家の兄貴:

硬いこと言うな!20年だぞ!? 織姫と彦星だって20回は会ってる時間の長さだぞ!俺はもうビールを開けた! 乾杯の音頭は任せろ!

「昼の3時だぞオイ!!」

もはや秋田にいながら、東京のビッグサイト周辺に激しい嵐が吹き荒れている幻覚が見える。

由美さんは涙を拭きながら、うーん、と人差し指を顎に当てた。

「でも、お兄さんのその暴走、逆に利用しちゃいましょう」

「え?利用って、このアルコール駆動型暴走特急をどうやって!?」

「お兄さんには、オンラインで繋ぐのは、最初の乾杯の3分だけ!って条件をつけるんです。で、息子さんたちには事前にこう送るんですよ」

由美さんは俺のスマホを奪い取ると、鮮やかな手つきでグループラインに文字を打ち込んだ。

みんな、ごめん! 秋田と実家のオヤジたちが20年ぶりの興奮でバグっちゃって、最初の3分だけオンラインで乾杯させろってうるさいんだ(笑)。適当にハイハイってあしらって、3分経ったらブチ切って若者だけで楽しんで!

「あ!」俺は目からウロコが落ちた。

「こうすれば」由美さんはニヤリと笑う。「共通の敵(バグったオヤジたち』ができることで、いとこ同士の連帯感が爆発的に生まれます。ほら、青春ドラマでも、口うるさい先生を出し抜く時に仲間って団結するじゃないですか」

「由美さんあなた、心のカウンセラーか何かなの?天才すぎるよ」

すぐにスマホに反応があった。

東京の息子:

了解(苦笑)。うちの親父がすまん。最初の3分だけ耐えよう

兄貴の息子A:

いや、うちの親父こそすんません(笑)。了解です、3分で強制終了しますね!

画面の向こうで、会ったこともない若者たちがオヤジたちの暴走という共通の苦難を前に、ガッチリとスクラムを組んだのが分かった。20年の溝が、オヤジのバカさ加減によって急速に埋まっていく。

「繋がりましたね、縁」

由美さんがコーヒーを一口飲み、満足そうに微笑んだ。

「ああ、繋がったよ。ただ、これ、俺もバグったオヤジの片棒を担ぐことになってるんだけど、まあいっか!」

秋田の喫茶店で、俺は兄貴から送られてきたズームのURLをタップした。画面に映った兄貴は、本当に缶ビールを片手に、なぜか実家のリビングでクラッカーを持って待機していた。

東京のビッグサイト前で、これから始まる3分間のオヤジ撃退ミッション。

若者たちの、そして我が家の20年ぶりの大作戦は、サイコーにドタバタな形で幕を開けようとしていた。

実況中継

東京・国際展示場(ビッグサイト)の、のぼり旗がはためく広場。

そこから500キロメートル近く離れた秋田市の喫茶店で、俺(52歳・バグったオヤジA)はノートパソコンの画面を凝視していた。

画面の向こう、Zoomの別ウィンドウには、昼下がりの実家で既にできあがっている兄貴(バグったオヤジB)が映っている。背景には「祝・20年ぶりの再会」と手書きされた半紙がぶら下がっていた。いつの間に作ったんだ。

「おいマサオ!若者どもはまだか!画面が繋がらんぞ!」

缶ビールをカメラにかざしながら、兄貴が秋田まで響きそうな声で吠える。

「兄貴、落ち着け。若者たちには、共通の敵(俺たち)を出し抜くスリルを楽しんでもらうために、3分間の制限時間を設けてある。入場したら一気にいくぞ」

ピコーン。

運命の入室音が鳴った。画面に現れたのは、スマートフォンのインカメラを覗き込む若者3人の顔。

左側に我が息子、右側に兄貴のところの息子AとB。なんと、すでに合流して1つの画面に収まっている!

「あ、繋がった。初めまして、親父。こっちが従兄弟の」

息子が言いかけるや否や、兄貴が画面の向こうでクラッカーをぶっ放した。

パァン!!!

「うおおおおお!20年ぶりの歴史的邂逅(かいこう)ォォォ!! 乾杯ァァァイ!!!」

画面の中の若者3人が、衝撃波を食らったかのように一斉にのけぞる。

「ちょっと親父、うるさすぎ!」と兄貴の息子Aが耳を押さえ、我が息子はカメラの向こうの俺を「おい、話が違うぞ」という冷ややかな目で睨みつけてきた。

秋田の喫茶店で、俺はインカメラに向かって必死に両手を合わせて頭を下げた。ごめん。息子よ、伯父さんのパッションは俺の制御枠を超えていた。

「コラ兄貴!若者が引いてるだろ! えー、東京のみんな、初めまして。秋田の叔父さんです。20年前にみんなが赤ん坊だった頃に会って以来だね。急なオヤジたちの思いつきに付き合ってくれて、本当にありがとう」

俺が必死に軌道修正を試みると、兄貴の息子Bが画面越しに笑った。

「あ、叔父さん初めまして! 親父からいつも、マサオは俺より頭が良いから騙されるなって言われてたんですけど、めっちゃ優しそうじゃないですか!」

「おいB!余計なことを言うな!」と画面の向こうで焦る兄貴。

そのやり取りを見て、俺の息子がボソッと呟いた。

「なんか、うちの親父と伯父さんの関係、俺たちのグダグダなLINEのやり取りにそっくりだな」

その一言で、画面の中の若者たちの空気が一瞬で和んだ。

「それな!」「血筋って怖いわ!」と笑い合う3人。20年という空白の時間が、オヤジたちの醜態という強力な接着剤によって、みるみるうちに埋まっていくのが分かった。

目の前で繰り広げられる奇跡の光景に、俺は胸が熱くなった。

「よし、約束の3分だ!」

俺は腕時計を叩いた。

「オヤジたちの御託はここまで!あとは若者だけで美味いもんでも食ってこい! 兄貴、画面を閉じるぞ!」

「待て!俺はまだ一言も熱いメッセージを伝えて」

「閉じる!!」

カチッ。

俺は強制的にZoomのミーティングを終了した。ノートパソコンの画面が暗転し、喫茶店に静寂が戻る。

「ふぅ。ミッション、コンプリートだ」

俺は大きくため息をつき、背もたれに深く寄りかかった。

隣で一部始終を見守っていた由美さんが、ハンカチで目元を拭いながらクスクスと笑っていた。

「最高でした! お兄さんのクラッカー、喫茶店まで音が聞こえてきそうでしたよ。でも、大成功ですね。息子さんたち、すごく良い笑顔で笑ってました」

「あいつら、俺たちのことをバカなオヤジたちってネタにして、今頃カフェで盛り上がってるよ。まあ、今回はそれで大正解だな」

冷めきったコーヒーを飲み干したその時、俺のスマホがまたピコンと鳴った。

グループラインではなく、東京の息子からの個人のラインだった。

画面を開くと、1枚の写真が送られてきていた。

ビッグサイト近くのオシャレなカフェで、パフェを真ん中に挟み、肩を組んで笑う3人の大学生。

息子のLINE:

思ったより全然気まずくなかった。来月、あいつらがこっちの大学の学園祭に遊びに来るってさ。親父、一応サンキュー

「っよし」

俺は誰にも見えないように、胸の奥で小さくガッツポーズをした。

秋田のどんよりした空の下、単身赴任中の冴えないオヤジの作戦は、完璧な形で若者たちの未来へとバトンを繋いだのだ。

そう、この時はまだ、誰も予想していなかった。

この、いとこ大作戦の成功に味を占めた実家の兄貴が、さらにとんでもないネクストステージを勝手にブち上げてくるなんてことは。

ネクストステージ

東京の息子から届いた、いとこ3人の肩組み笑顔写真。

「来月、あいつらが学園祭に遊びに来るってさ。親父、一応サンキュー」というツンデレなメッセージを眺めながら、秋田の喫茶店で俺(52歳・涙腺が緩み始めたお年頃)は、完全に勝利の余韻に浸っていた。

「いやぁ、本当に良かったですね。お父さんの株も爆上がりじゃないですか」

由美さんも自分のことのように目を細めて喜んでくれている。

「すべては由美さんのおかげだよ。秋田に赴任してきて、こんなに質の高いアドバイスをもらえるとは思わなかった。これで我が家の20年戦争も、平和条約調印ってわけだ」

そう、俺たちは勝ったのだ。ドタバタ劇はハッピーエンドを迎えた。

はずだった。

ピロリーーーン!!!

静かな喫茶店に、脳髄を突き刺すようなけたたましい着信音が鳴り響いた。画面に表示された名前は実家の兄貴。嫌な予感しかしない。

「もしもし、兄貴?さっきはよくもクラッカーを」

マサオィィィ!!!聞いたか! 若者ども、めちゃくちゃ意気投合して来月また会うらしいぞ!

受話器の向こうの兄貴は、すでにビール3缶目に突入しているのか、ロックスターのようなテンションだった。

「ああ、息子から連絡があったよ。静かに見守った甲斐があったな」

『おう!そこでだ! 兄貴として、そしてこのプロジェクトの最高責任者として、俺はひらめいた!』

プロジェクト?最高責任者?

嫌な汗が背中を伝う。

若者があれだけ盛り上がってるんだ、親の俺たちが指をくわえて見てるわけにいかんだろ! よし、今年の盆は、お前も秋田から実家に戻れ!東京の息子も呼び戻せ! うちの家族も全員集まる!20年ぶりの大・親族フルコンボ合宿を開催するぞ! 宿とバーベキューセットは俺がもう押さえた!

「はあぁぁぁ!?バーベキュー!?」

俺は思わず喫茶店で立ち上がった。

「待て待て兄貴! 若者たちは1時間のお茶っていう絶妙なディスタンスだから成功したんだよ! いきなり盆に全員集合して、煙にまみれながらトング片手に2泊3日とか、ハードルがエベレスト級に跳ね上がってるだろ!」

『ガハハハ!案ずるな!20年のブランクなんて、炭火の火力で一発で消し飛ぶわ! じゃあな、スケジュール空けとけよ!』

ツーーー、ツーーー。

一方的に切られたスマホを握りしめ、俺は真っ白な灰のようになって席に崩れ落ちた。

インターバルが短すぎやしませんかね。

由美さんは、もはや机に突っ伏して、声を殺して震えながら大爆笑している。

「お腹痛いっ!お兄さん、ネクストステージの規模が大きすぎます!」

「笑い事じゃないよ、由美さん! 物語が完結するどころか、超大型サバイバル編に突入しちゃったよ! 炭火の火力で消し飛ぶのは、俺のメンタルだよ!」

頭を抱える俺に、由美さんは涙を拭きながら、いつものように優しく、しかし今度は少し悪戯っぽく微笑みながら言った。

「でも、マサオさん。これ、案外うまくいくと思いますよ」

「え?この無謀なバーベキュー合宿が!?」

「だって、今回の件で、息子さんたちの間にはもう、オヤジたちの暴走をいなし合うっていう、最強の絆(チュートリアル)が完成してるじゃないですか。きっと盆の合宿でも、息子さんたちは、また親父たちがバグってるよ(笑)ってアイコンタクトを交わしながら、仲良く肉を焼いてくれますよ」

俺はハッとした。

確かに、東京のカフェでの、3分間のオヤジ撃退ミッションを生き抜いた若者たちだ。彼らにとって、兄貴の暴走など、今や格好の「ネタ」でしかないのかもしれない。

「そっか。俺たちがバカをやればやるほど、あいつらの絆は深まるのか」

「そういうことです」由美さんはコーヒーカップを掲げた。「親は子供たちのために、喜んで愛すべき障害物になってあげればいいんです。20年の時間は、もう障害なんかじゃありません。これからは、お兄さんとマサオさんが巻き起こすドタバタが、新しい思い出になっていくんですよ」

窓の外には、さっきまでどんよりしていた秋田の空から、すっと綺麗な青空が覗いていた。

単身赴任先の孤独な部屋に戻る日々。だけど、今年の夏は、うるさくて、煙たくて、サイコーに賑やかな場所が俺を待っている。

俺は自分のコーヒーカップを、由美さんのカップに小さくチリン、と合わせた。

「よし。今年の夏は、思いっきりバカなオヤジを演じて、盛大に肉を焦がしてやるか!」

数日後、いとこグループラインに、兄貴から、「盆合宿・しおり(手書き)」の画像が爆撃のように投下された。

それに対して、我が息子から、まーた始まったよ(笑)というスタンプが秒で返ってきたのを見て、俺はニヤニヤしながら、夏物の服をスーツケースに詰め始めるのだった。

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