プリン🍮③
悲しみは確かにある。でも、暗く沈むのではなく、人は愛した人と共に生き続けられるという優しい物語を語ります。アイコの強さ・周囲の支え・亡き、ヒサシの存在感を温かく描いた物語です。
あまりにも突然だった
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| プリン③ |
ヒサシが倒れたのは、ブティックに転職して3年目の夏。
朝、いつも通り
「プリン買って帰るからな」
と笑って出ていった。
その日の夕方、アイコのスマホが鳴った。
病院からの電話。
そして、あまりにも早い別れ。
アイコは涙も出なかった。
ただ、現実が理解できなかった。
その夜、家に戻ったアイコは冷蔵庫を開けてしまった。
そこには非常用プリンが2つ。
(なんで、こんな時にプリンなの)
でも、アイコは気づいた。
(ヒサシって、最後の最後まで私のためにプリン買ってたんだ)
涙がぽろぽろ落ちた。
悲しみと、ヒサシらしさへのツッコミが同時に来る。
「非常用って、何の非常よ」
泣きながら笑うという、人生で初めての感情だった。
葬儀
葬儀には、会社の人、ブティックの常連客、アイコの実家、ヒサシの実家、とにかく大勢が来た。
そして全員が言う。
「ヒサシくん、ほんとにドジだったよね」
「でも憎めないんだよなぁ」
「うちの店でも棚を倒してねぇ」
「うちの会社でもコピー機壊してねぇ」
アイコは思った。
(なんでみんな、ヒサシの失敗談ばっかり話すの?)
でも、気づいた。
(あぁみんな、笑わせようとしてくれてるんだ)
アイコの実家の母・ミドリが葬儀場に持ってきたのは
「ヒサシくんが最後に飲んだ、庭のスーパーフードよ」
「お母さん、それ雑草だからね!」
周囲がクスッと笑った。
悲しみの中に、小さな笑いが灯った瞬間だった。
ヒサシの実家で、静かすぎる優しさに泣く
葬儀後、アイコはヒサシの実家へ。
義父タケオは、いつものように無言でお茶を出した。
しかし、帰り際にぽつり。
「アイコさん。
ヒサシはあなたと結婚して
よかった」
アイコは泣き崩れた。
タケオがこんなに言葉を紡ぐのは初めてだった。
ヨシコは静かに言った。
「食べて。
あなた、細くなった」
気づけばアイコの皿は山盛り。
(この家の優しさ、静かすぎて逆に泣ける)
一人暮らしのスタートと、ヒサシの残したメモ
- 洗濯物の干し忘れ
- プリンの空き容器
- 中途半端に直された家電
- 「明日やる!」と書かれたメモ
アイコはそれを見て笑った。
(ほんとに、5歳児みたいな夫だったな)
でも、同時に胸が痛む。
(もう、このポンコツにツッコめないんだ)
ヒサシのスーツのポケットから小さなメモが出てきた。
『アイコの誕生日、今年はケーキ2個にする』
「なんで2個なのよ」
泣きながら笑うアイコ。
ヒサシは最後まで、アイコを笑わせる準備をしていた。
アイコ、少しずつ前へ進む
ある日、アイコはスーパーでプリン売り場の前に立った。
(買ってみようかな)
プリンを手に取ると、胸がぎゅっとした。
でも、買った。
家に帰って食べながら言った。
「ヒサシ、非常用プリン、今日から私が担当するからね」
専業主婦だったアイコは、少しずつ外に出る決意をした。
「ヒサシがいたら、絶対こう言うよね。
アイコならどこでもやれるって」
その言葉を胸に、履歴書を書き始めた。
ヒサシのいない世界で、アイコは今日も笑う
季節が巡り、アイコは新しい仕事を始めた。
失敗すると、なぜかヒサシの声が聞こえる気がする。
『あっ、やっちゃったな』
『まぁ、なんとかなるって』
「なんで天国からまでポンコツなのよ」
そう言いながら、アイコは笑っていた。
夜、アイコは冷蔵庫を開ける。
そこにはプリンが2つ。
「非常用はまだ必要だね」
アイコは空を見上げて言った。
「ヒサシ、私ね。
あなたがいなくても、ちゃんと笑えてるよ。
でも、あなたがいたから笑えるんだよ」
ヒサシのいない世界でも、アイコは今日も笑う。
それは、ヒサシが残した愛の形だった。
アイコ、ひとりで歩き出す日
ヒサシがいなくなって数ヶ月。
アイコの朝は、驚くほど静かだった。
- ヒサシの「あっ」が聞こえない
- プリンの在庫確認をする人もいない
- 洗濯物を干し忘れる人もいない
静かすぎて、逆に落ち着かない。
「ヒサシ、あなたがいないと
家ってこんなに整うのね」
そう言いながら、アイコはひとりで苦笑した。
専業主婦だったアイコは、少しずつ外に出るために仕事を探し始めた。
面接の日。
緊張しながら自己紹介をした。
「前職は衣料品メーカーで
結婚を機に退職しまして」
面接官が優しく聞いた。
「ご主人は、今は?」
アイコは一瞬、言葉に詰まった。
「天国で、プリンを食べてると思います」
面接官が固まった。
(あっ、やっちゃった!
ヒサシのあっが私に移ってる!)
しかし面接官は笑った。
「いいですね。
そういうユーモア、大事ですよ」
結果、採用された。
(ヒサシ、あなたのポンコツ遺伝子が
私を救ったよ)
新しい職場は、小さな雑貨店だった。
初日、緊張しながら棚を整理していると
ガタンッ!
棚の上の箱が落ちてきた。
「わっ!」
アイコは反射的に言った。
「ヒサシ、やめてよ!」
周りのスタッフが驚いた。
「えっ、誰?」
アイコは赤面した。
「いえ、その
夫がよく棚を倒してたので」
スタッフは笑った。
「じゃあ、ここでも倒してくれるかもしれないね」
(いや、来ないで。
でも、来てほしいような)
アイコは胸が少しだけ温かくなった。
仕事帰り、
アイコはスーパーに寄った。
プリン売り場の前で立ち止まる。
(今日、買って帰ろう)
プリンを2つ手に取った。
「1つは私の。
もう1つは非常用」
ヒサシがいた頃と同じ習慣。
でも、意味は少し違う。
(非常用って、
私が泣きそうになった時用ってことね)
家に帰って、プリンを冷蔵庫にそっと入れた。
夜、アイコはベランダに出た。
風が気持ちよくて、ふと空を見上げた。その瞬間、ヒサシの声が聞こえた気がした。
『アイコ、よく頑張ってるじゃん』
『プリン、ちゃんと冷やした?』
「うるさいよ、ヒサシ」
でも、涙は出なかった。
代わりに、小さな笑いがこぼれた。
翌朝、アイコは鏡の前で言った。
「よし。
今日も働いて、笑って、
プリン買って帰ろう」
ヒサシがいなくても、アイコは歩ける。
でも、ヒサシがいたから歩ける。
その違いを胸に抱きながら、アイコは新しい日へ踏み出した。
アイコ、新しい仲間と出会う
アイコが働き始めた雑貨店「コトリ堂」は、小さくて可愛い店だが、スタッフの個性が強すぎた。
店長・サエコ(45)は、いつもテンションが高くて、声が大きい。
「アイコちゃん、今日も可愛いねぇ!
その笑顔、店の売上3%上がるよ!」
(3%って具体的)
アルバイトのユウト(19)は、やたらと落ち着いていて、
アイコより人生経験がありそうな雰囲気。
「アイコさん、棚の上の箱は僕がやります。
落ちてくると危ないので」
(ヒサシの棚事件、もうバレてる?)
そして常連客のマダム・フミエ(68)。
毎日来る。
毎日しゃべる。
毎日、買わない。
「あなた、最近働き始めたの?
あら、いいわねぇ。
人生はね、動いた人から幸せになるのよ」
(買わないのに、名言だけ置いていく)
アイコは思った。
(この店、ヒサシがいたら絶対ツッコんでる)
ある日、アイコは接客でミスをした。
「こちら、ラッピングお願いします」
「はい!お任せください!」
しかし、アイコはラッピング用の紙ではなく、商品用の包装紙で包んでしまった。
結果、プレゼントが店のロゴだらけのゴツい箱になった。
お客さんは苦笑い。
「逆に目立っていいかもね」
店長サエコは爆笑した。
「アイコちゃん最高!
こういうの、うちの店の名物にしよ!」
(いや、名物にしないで!)
でも、ユウトが優しくフォローした。
「大丈夫ですよ。
僕も最初は値札つけたまま渡す事件やりましたから」
(この店、事件多いな)
ミスをして落ち込むアイコに、マダム・フミエが近づいてきた。
「あなた、泣きそうな顔してるわね」
「いえ、大丈夫です」
「大丈夫じゃない顔よ。
でもね、泣きたい時は泣きなさい。
泣いたら、プリン食べなさい」
アイコは驚いた。
「なんでプリン?」
「女はね、プリンで立ち直るのよ」
(ヒサシの生まれ変わり?)
フミエは続けた。
「あなた、誰かを失った顔をしてる。
でもね、失った人は、
あなたが笑うと喜ぶのよ」
アイコの胸がじんわり温かくなった。
(この人、ただの常連じゃない)
仕事終わり、スタッフルームでサエコが言った。
「アイコちゃん、今日も頑張ったね!
ミスしてもいいのよ。
うちの店、全員ミスしてるから!」
ユウトも笑った。
「僕なんて、昨日レジ閉め忘れましたし」
(それはダメでしょ)
でも、アイコは気づいた。
(この店なんか、ヒサシの家みたい)
ドタバタで、ちょっとポンコツで、でも温かい。
家に帰る途中、アイコはふと空を見上げた。
「ヒサシ、今日ね
私、ミスしたけど笑えたよ。
あなたがいたら絶対ツッコんでたよね」
風がふわっと吹いた。
まるでヒサシが
「まぁ、なんとかなるって」
と言っているようだった。
アイコは微笑んだ。
家に帰って冷蔵庫を開けると、プリンが2つ。
「非常用は今日はいらないかな」
アイコは1つだけ取り出して、
ゆっくり食べた。
(新しい仲間ができた。
新しい日常が始まった。
ヒサシ、私ちゃんと前に進めてるよ)
その夜、アイコは久しぶりにぐっすり眠れた。
新企画
ある日、店長サエコが言った。
「アイコちゃん、来月の手作りフェアで
何か出してみない?」
「えっ、私がですか?」
「そうよ!
アイコちゃん、センスいいし、
お客さんにも人気あるし!」
ユウトも言った。
「アイコさんのラッピング、
あれはあれで味がありますし」
「それ褒めてるの?」
でも、アイコは思った。
(やってみようかな)
ヒサシなら絶対こう言う。
『やれやれ!失敗したら俺のせいにしろ!』
(いや、天国から責任取れないでしょ)
そうツッコミながら、
アイコは久しぶりにワクワクを感じた。
アイコが選んだのは、
小さなビーズアクセサリー。
最初は不器用で、
ビーズを床にばらまいたり、
糸を絡ませたり。
「ヒサシ、これ絶対笑ってるでしょ」
でも、作っていると不思議と楽しい。
(あ、これ可愛いかも)
(この色、ヒサシが好きだったな)
(この形、あの人のネクタイに似てる)
気づけば、
ヒサシとの思い出が
アクセサリーの中に自然と溶け込んでいた。
作業中、常連のフミエがやってきた。
「あなた、最近いい顔してるわね」
「そうですか?」
「ええ。
人はね、何かを作ると前に進めるのよ。
料理でも、アクセサリーでも、
プリンでもね」
「プリンは作らないです」
「じゃあ食べなさい」
(この人、ヒサシの親戚?)
フミエは続けた。
「亡くした人のことを思いながら作ると、
その人が作品の中に住むのよ」
アイコは胸が温かくなった。
(ヒサシ、私のアクセサリーの中に住むの?
狭くない?)
フェア当日。
アイコのアクセサリーは
なんと、予想以上に売れた。
「これ可愛い!」
「色の組み合わせが素敵」
「なんか優しい雰囲気がするね」
サエコは大喜び。
「アイコちゃん!
これ、ブランド化しようよ!
アイコのプリン工房とか!」
「プリン関係ないですよね?」
ユウトが冷静に言った。
「プリンはやめた方がいいと思います」
(この店、やっぱり好きだな)
フェアが終わった帰り道。
夕焼けがきれいだった。
アイコは空に向かって言った。
「ヒサシ、今日ね
私、すごく楽しかったよ。
あなたがいなくても、
こんな日が来るんだね」
風がふわっと吹いた。
まるでヒサシが
『だろ?俺の嫁は最強なんだよ』
と言っているようだった。
アイコは微笑んだ。
「うん。
でもね、あなたがいたから最強なんだよ」
そして、
アイコの人生はまたひとつ、
静かに前へ動き出した。
アイコ、新しい家族の形を見つける
その日、出勤すると
店長サエコが大声で言った。
「アイコちゃん!
今日のお昼、みんなで食べに行こうよ!」
ユウトも言った。
「アイコさん、最近表情が柔らかくなりましたね」
マダム・フミエは相変わらず毎日来て、
買わずに名言だけ置いていく。
「あなた、もうひとりじゃないわよ。
ここに来れば、あなたを笑わせる人がいるもの」
(そうか。
この人たち、もう家族なんだ)
アイコは気づいた。
形じゃない家族が、
いつの間にか自分の周りにできていた。
ある日、サエコが言った。
「アイコちゃん、アクセサリーのブランド化、
本気で考えない?」
「えっ、私がブランドを?」
「そうよ!
名前はアイコのプリン工房!」
「だからプリン関係ないですよね?」
ユウトが冷静に言った。
「プリンはやめた方がいいと思います」
マダム・フミエは言った。
「アイコの灯(あかり)なんてどう?
あなたの作品、優しい光があるもの」
アイコは胸が温かくなった。
(私、やってみたいかも)
ヒサシの声が聞こえる気がした。
『やれやれ!
失敗したら俺のせいにしろ!』
「もう、天国からまで無責任なんだから」
でも、笑ってしまう。
その夜、アイコはベランダに出て
空を見上げた。
「ヒサシ。
私ね
アクセサリーのブランド、始めてみようと思う」
風がふわっと吹いた。
まるでヒサシが
『おお、やるじゃん!』
と言っているようだった。
「あなたがいなくても、
私はちゃんと生きていくよ。
でもね
あなたがいたから、生きていけるんだよ」
アイコは涙を拭いて、
そっと微笑んだ。
翌朝、アイコは冷蔵庫を開けた。
プリンが2つ。
「非常用は今日も必要だね」
でも、意味は変わっていた。
悲しみを埋めるためではなく、
今日も笑って生きるため。
アイコはプリンを1つ取り出し、
もう1つはそっと残した。
「ヒサシの分はここに置いておくね」
それは、
ヒサシと共に生きるという
アイコなりの新しい家族の形だった。
雑貨店の仲間たち。
マダム・フミエ。
新しく始まるアクセサリーブランド。
そして、天国のヒサシ。
アイコの人生は、
静かに、でも確かに前へ進んでいく。
ヒサシがいなくても、
ヒサシと共に。
笑って、泣いて、また笑って。
アイコは今日も、
新しい家族と共に生きていく。
アイコ、新しい夢に名前をつける
雑貨店「コトリ堂」の休憩室。
アイコのブランド名を決める会議が開かれた。
店長サエコは、ホワイトボードに勢いよく書いた。
「候補その1!
アイコのプリン工房!」
「だからプリン関係ないですよね」
ユウトが冷静に言う。
「プリンはやめた方がいいと思います」
マダム・フミエは優雅に紅茶を飲みながら言った。
「アイコの灯(あかり)がいいわ。
あなたの作品、優しい光があるもの」
サエコが言った。
「じゃあ灯プリンはどう?」
「だからプリンを混ぜないで!」
会議はカオスだった。
でも、アイコは笑っていた。
(ヒサシがいたら絶対ツッコんでる)
その夜、アイコは家で
ヒサシの手紙を読み返していた。
『アイコは強いから大丈夫。
でも、強い人ほど無理するから心配だ。
だから、ちゃんと誰かに頼れ。
俺の代わりにツッコんでくれる人、
きっと現れる。』
(頼る、か)
あの一通。
『アイコが笑ってたら、
俺はそれだけで幸せだ。』
(笑顔、か)
そして最後の一文。
『プリン食べろ』
「プリンは関係ないでしょ!」
でも、アイコは気づいた。
(ヒサシが残した言葉って、
全部私を笑わせるためだったな)
その瞬間、
ブランド名がふっと浮かんだ。
翌日、アイコは店に行って言った。
「ブランド名、決めました」
サエコとユウトとフミエが身を乗り出す。
「なんて名前?」
「プリン入ってる?」
「灯プリン?」
アイコは笑って言った。
「AICO(アイコ)です」
サエコが目を丸くした。
「自分の名前をブランドに!
なんかプロっぽい!」
ユウトがうなずく。
「シンプルで覚えやすいですね」
フミエは微笑んだ。
「あなたらしいわ。
あなたの人生そのものが作品になるのよ」
アイコは胸がじんわり温かくなった。
(ヒサシ、見てる?
私、自分の名前で勝負するよ)
ロゴを作るため、
ユウトがパソコンを開いた。
「こんな感じでどうですか?」
画面には
シンプルで可愛いAICOの文字。
サエコが言った。
「いいじゃない!
でも、プリンのイラスト入れようよ!」
「入れません!」
フミエが言った。
「じゃあ、灯りのマークを」
「それはアリです!」
結果
AICOのOが小さな灯りの形になった。
(ヒサシ、どう?
プリンじゃなくて灯りにしたよ)
風がふわっと吹いた気がした。
アイコはビーズを並べ、
ひとつひとつ丁寧にアクセサリーを作った。
- ヒサシが好きだった青
- アイコが好きな白
- フミエが勧めた金色
- サエコが勝手に混ぜたピンク(意外と可愛い)
完成したアクセサリーを見て、
アイコは思わずつぶやいた。
「これ、私の人生みたい」
少し泣いて、
少し笑って、
いろんな色が混ざって、
でもちゃんとひとつの形になっている。
店頭に並べた瞬間、
お客さんが足を止めた。
「これ可愛い!」
「優しい色合いね」
「なんかあったかい」
サエコが言った。
「アイコちゃん、売れてるよ!
これ、絶対人気ブランドになるって!」
ユウトも言った。
「アイコさん、すごいです」
フミエは言った。
「あなたの人生が、
誰かの胸に灯りをともすのよ」
アイコは胸がいっぱいになった。
(ヒサシ
私、ちゃんと前に進めてるよ)
その夜、
アイコは冷蔵庫を開けて
プリンをひとつ取り出した。
「ブランド立ち上げ記念に
あなたの分も食べていいよね?」
プリンは甘くて、
少し涙の味がした。
ブランド「AICO」は、
アイコの新しい人生の象徴になった。
ヒサシと共に生きた日々も、
ヒサシを失った悲しみも、
全部が灯りになって
アイコの未来を照らしている。
アイコは今日も、
新しい家族と、新しい夢と、
そして天国のヒサシと一緒に生きていく。
アイコ、初めてのイベントで大騒動
雑貨店「コトリ堂」のバックヤード。
店長サエコが、いつものテンションで叫んだ。
「アイコちゃん!
AICOブランド、イベント出店決まったよ!」
「えっ?イベントって、あの、
人がいっぱい来るやつですか?」
「そう!
広島駅前の手作りマルシェ!
来場者数、去年は3万人!」
「3万人?」
アイコは一瞬、魂が抜けた。
ユウトが冷静に言った。
「大丈夫ですよ。
最初のイベントは誰でも緊張します」
マダム・フミエは優雅に言った。
「あなたなら大丈夫よ。
笑顔でいれば、売れなくても許されるわ」
「売れない前提なんですか?」
イベント準備は、
なぜか文化祭のようなノリになった。
サエコは言う。
「ポスター作るよ!
AICOのロゴをドーンと!」
ユウトは言う。
「在庫管理は僕がやります。
アイコさんは制作に集中してください」
フミエは言う。
「差し入れにプリン持ってくるわね」
「プリンはありがたいです」
アイコは思った。
(この店、やっぱり家族みたい)
イベント当日。
AICOのブースは可愛く飾られ、
アイコは緊張で手が震えていた。
「いらっしゃいませ!」
しかし
開始5分で事件が起きた。
風が吹いて、ポスターが飛んだ。
サエコが叫ぶ。
「アイコちゃんのロゴが逃げたー!」
ユウトが走る。
「僕が追いかけます!」
フミエは言う。
「私は見守るわ」
(見守るだけ?)
結局、ユウトがポスターを捕獲した。
「確保しました」
「ありがとうございます!」
トラブル続きだったが、
AICOのアクセサリーは予想以上に売れた。
「この色合い、優しいですね」
「なんか心が落ち着く」
「誰かを思って作った感じがする」
アイコは胸が熱くなった。
(ヒサシ、見てる?
私、ちゃんとやれてるよ)
サエコは大喜び。
「アイコちゃん!
売上、うちの店の中で1位よ!」
ユウトも言った。
「アイコさん、すごいです」
フミエは言った。
「あなたの作品、
人の心に灯りをともすのよ」
イベントの終盤、
ひとりの女性がブースに来た。
「こんにちは。
あなたがAICOの作家さんですか?」
「はい、そうです」
「実は
うちの雑貨店でも扱わせてもらえないかと思って」
「えっ!」
女性は、
広島市内で人気のセレクトショップのオーナーだった。
「あなたの作品、
優しさがあって、すごく惹かれました。
ぜひお話ししたいです」
アイコは胸が震えた。
(ヒサシ、私、
あなたがいなくても前に進めてるよ)
イベントが終わり、
荷物を片付けて帰る途中。
アイコは空を見上げて言った。
「ヒサシ。
今日ね
あなたがいたら絶対ツッコんでたよ。
ポスター飛んだし、
サエコさん暴走するし、
フミエさんは見守るだけだし」
風がふわっと吹いた。
まるでヒサシが
『まぁ、なんとかなるって』
と言っているようだった。
アイコは微笑んだ。
「うん。
なんとかなったよ。
あなたが残してくれた灯りのおかげでね」
イベント出店は大成功。
新しい出会いもあり、
AICOブランドは次のステージへ進む。
アイコは今日も、
ヒサシと共に、
新しい家族と共に、
未来へ歩き続ける。
フミエ、灯りの奥に隠していたもの
AICOブランドのイベントが終わって数日。
毎日店に来ていたマダム・フミエが、
ぱったり姿を見せなくなった。
サエコが言った。
「フミエさん、どうしたんだろうねぇ。
毎日来て、毎日買わずに帰ってたのに」
ユウトも心配そう。
「体調が悪いんでしょうか」
アイコは胸がざわついた。
(フミエさん、大丈夫かな)
サエコが言った。
「アイコちゃん、行ってみようよ。
フミエさんの家、知ってるから!」
「えっ、知ってるんですか?」
「だって、あの人、うちの常連歴10年だよ?」
(10年?
私より店に馴染んでる)
こうして、
アイコ・サエコ・ユウトの3人で
フミエの家を訪ねることになった。
玄関を開けると、
フミエはソファに座っていた。
「まぁ。来てくれたのね」
少し痩せたように見えた。
アイコは駆け寄った。
「フミエさん、大丈夫ですか?」
「ええ。
ちょっと疲れただけよ。
歳を取るとね、
心も体も休ませる日が必要なの」
フミエは微笑んだが、
その笑顔はどこか寂しげだった。
ふと、アイコは棚に置かれた写真に目を留めた。
若い頃のフミエと、
優しそうな男性が並んで写っている。
「フミエさん、この方は?」
フミエは静かに答えた。
「私の夫よ。
もうずいぶん前に亡くなったけれどね」
アイコの胸がきゅっとなった。
(私と同じだ)
フミエは続けた。
「あなたを見ていると、
昔の私を思い出すのよ」
フミエはゆっくり話し始めた。
「夫が亡くなった時、
私はね
世界が全部止まったように感じたの」
「・・・」
「でも、ある日気づいたの。
止まっているのは世界じゃなくて、私だって」
アイコは息をのんだ。
「それから私は、
毎日外に出るようにした。
誰かと話すようにした。
笑う練習もしたわ」
「笑う練習?」
「そうよ。
最初はぎこちなかったけれど、
だんだん本物になっていった」
フミエはアイコの手をそっと握った。
「あなたが前に進む姿を見て、
昔の私を思い出したの。
だから、応援したかったのよ」
フミエは少し照れたように笑った。
「それにね
あなたのアクセサリー、
夫が好きだった色に似ていたのよ」
「えっ」
「優しい青と白。
あの人がよく着ていたシャツの色なの」
アイコは胸が熱くなった。
(ヒサシの好きな色でもある)
フミエは続けた。
「あなたの作品を見ていると、
あの人がそばにいるような気がしたの。
だから、毎日店に通っていたのよ」
アイコの目に涙が浮かんだ。
フミエは優しく言った。
「アイコさん。
亡くした人はね、
思い出すたびに生き返るのよ」
「・・・」
「あなたが笑えば、
ヒサシさんも笑う。
あなたが前に進めば、
ヒサシさんも一緒に進むの」
アイコは涙をこぼしながら言った。
「フミエさん、
私、もっと頑張ります。
もっと笑って、
もっと作って、
もっと前に進みます」
フミエは微笑んだ。
「ええ。
それが、あなたの灯りになるわ」
フミエの家を出た帰り道。
夕焼けが優しく街を染めていた。
アイコは空に向かって言った。
「ヒサシ。
あなたと同じように、
誰かを照らせる人になりたいよ」
風がふわっと吹いた。
まるでヒサシが
『お前ならできるって』
と言っているようだった。
アイコは微笑んだ。
AICOブランドは、
アイコの人生そのもの。
フミエの言葉は、
アイコの未来を照らす灯り。
ヒサシの愛は、
今もアイコの中で生き続けている。
そして
アイコは今日も、
新しい家族と、新しい夢と、
天国のヒサシと共に生きていく。
灯りは消えない。
愛も消えない。
物語は、心の中で続いていく。

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